患者さんが「抜け毛がひどいんです」と私の診察室を訪れるとき、その表情は一様に不安に満ちています。プロとして、まず行うのは丁寧な問診です。いつから始まったのか、どのくらいの量が抜けるのか、特定の場所だけか全体的なのか、そして抜け毛以外の症状、例えば体のだるさや体重の変化、皮膚の異常、服用中の薬や最近の生活での大きな変化などがないかを詳しくお聞きします。これらの情報は、原因を絞り込むための非常に重要な手がかりとなります。例えば、急激に始まった円形の脱毛であれば自己免疫疾患を、全体的にじわじわと薄くなってきたのであればホルモンバランスの乱れや栄養状態を疑います。出産後や大きな手術後であれば、一時的な休止期脱毛の可能性も考えられます。次に、頭皮と髪の状態をダーモスコープという特殊な拡大鏡などを使って詳細に観察します。頭皮に炎症や湿疹がないか、毛穴の状態は正常か、抜けた毛の毛根はどのような形をしているかを確認します。萎縮した毛根や、途中で切れている毛が多ければ、ヘアサイクルに何らかの異常が起きている証拠です。ここまでの診察で、男性型脱毛症(AGA)や加齢によるものなど、多くの場合、原因の見当がつきます。しかし、内科的な病気が疑われる場合は、さらに踏み込んだ検査が必要です。最も一般的なのが血液検査です。これにより、甲状腺ホルモンの値、鉄、亜鉛などのミネラルの量、貧血の有無、膠原病に関連する自己抗体の有無などを調べることができます。これらの数値に異常があれば、それが抜け毛の直接的な原因である可能性が高まります。診断とは、このように多角的な視点から情報を集め、パズルのピースを一つひとつ組み合わせていく作業です。不安を抱えたまま一人で悩むのではなく、専門医に相談していただくことが、解決への最も確実な近道なのです。
専門医が語る抜け毛の診断アプローチ