四十五歳を過ぎた頃からでしょうか、シャンプーの後の排水溝にたまる髪の毛の量が、明らかに増えたことに気づきました。最初は気のせい、季節の変わり目だからだろうと自分に言い聞かせていました。しかし、ある日、美容院で担当の方から「少し頭頂部が薄くなっていますね、お疲れですか」と遠慮がちに指摘され、心に衝撃が走りました。自分では見えにくい部分だっただけに、他人からの指摘は重く、その日から鏡で自分の頭頂部を確認するのが日課になりました。確かに、分け目の地肌が以前より白く、広く見えます。髪を乾かしても、若い頃のようなふんわりとしたボリュームが出ず、ぺたんとしてしまう。友人との写真を見返しても、自分の髪だけが寂しい印象で、年齢を突きつけられたような気がしました。言いようのない喪失感と不安に襲われ、外出するのも少し億劫になってしまったのです。そんな時、同年代の友人が「実は私も使っているんだ」と、こっそり女性用育毛剤の存在を教えてくれました。最初は少し抵抗がありました。育毛剤はもっと深刻な状態の人が使うもの、という先入観があったからです。しかし、友人の「顔に美容液を塗るのと同じだよ、頭皮だって肌なんだから」という言葉に背中を押され、勇気を出して初めての一本を購入しました。夜、お風呂上がりの清潔な頭皮に、説明書通りに育毛剤を塗布し、指の腹で優しくマッサージする。ひんやりとした液体が頭皮に浸透していく感覚と、心地よいハーブの香りに、不思議と心が安らぎました。これは治療ではなく、今日一日頑張った自分を慈しむためのケアなのだ。そう思うと、毎日の習慣にするのが楽しみになりました。すぐに髪が増えるわけではないけれど、頭皮を大切に扱うことで、自分自身を大切にしているという実感が湧いてきたのです。あの日の小さな一歩が、髪だけでなく私の心にも潤いを与えてくれる始まりだったと、今になって思います。