数ある脱毛症の中でも、最も治療が難しく、一度進行してしまうと二度と髪が生えてこない可能性があるのが「瘢痕性(はんこんせい)脱毛症」です。これは、何らかの原因によって頭皮に強い炎症が起き、毛根組織(毛包)が完全に破壊され、その部分が火傷の後のような「傷跡(瘢痕)」に置き換わってしまう状態を指します。通常の薄毛やAGAであれば、毛根は萎縮しているだけで生きているため、治療によって再び髪を生やすことが可能です。しかし、瘢痕化してしまった組織には毛根そのものが存在しないため、どんなに優れた育毛剤を使っても、薬を飲んでも、そこから髪が生えてくることはありません。原因は様々です。火傷や大きな怪我といった外傷によるものもあれば、重度の細菌感染(毛嚢炎の悪化など)や真菌感染(水虫菌など)によるものもあります。また、扁平苔癬(へんぺいたいせん)やエリテマトーデスといった自己免疫疾患や皮膚疾患が頭皮に及び、炎症を引き起こして瘢痕化することもあります。症状としては、脱毛部分の皮膚がツルツルとして硬くなり、毛穴が見えなくなっているのが特徴です。赤みや痛みを伴うこともありますが、自覚症状が少ないまま徐々に範囲が広がっていくケースもあり、気づいた時には手遅れになっていることも少なくありません。この脱毛症において最も重要なのは、「早期発見・早期治療」です。毛根が破壊される前の、炎症が起きている段階で食い止めることができれば、永久的な脱毛を防げる可能性があります。頭皮にずっと治らないニキビのようなものがある、皮膚が赤くただれている、不自然に毛穴がないツルツルの部分があるといった異変に気づいたら、様子を見ずにすぐに皮膚科専門医を受診する必要があります。自己判断で市販薬を塗ったり放置したりするのは大変危険です。治療は、原因となっている炎症を抑えることが主目的となります。抗生物質やステロイド剤の内服・外用などが用いられますが、すでに瘢痕化してしまった部分については、残念ながら発毛治療は効果がありません。見た目を改善するためには、ヘアピース(かつら)を使用するか、外科的な植毛手術(健康な部分の皮膚ごと移植する手術など)を行うしか方法がなくなってしまいます。