生活
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白髪染めをやめたら人生が変わった話
45歳を過ぎた頃から、私にとって白髪染めは、終わりのない戦いだった。三週間に一度、鏡の中の、根元からのぞく白い侵略者たちと向き合い、うんざりしながらも薬剤を塗る。時間も、お金も、そして髪への罪悪感も、全てが重荷だった。でもある日、ふと思ったのだ。「私は、一体何と戦っているのだろう?」と。この白い髪は、私が懸命に生きてきた証じゃないか。そう思った瞬間、ふっと肩の力が抜けた。私は、白髪染めをやめることにした。もちろん、簡単な決断ではなかった。「一気に老け込むんじゃないか」「みすぼらしく見られないか」。不安は尽きなかった。美容師さんと何度も相談し、染めている部分と地毛の境界が自然に馴染むように、カットやカラーを調整してもらいながら、移行期間を過ごした。そして一年後、私の髪は、美しいシルバーグレイに生まれ変わった。白髪染めをやめて、私が手に入れたものは、想像以上に大きかった。まず、圧倒的な「解放感」。染める時間と手間、頭皮への負担、そして「白髪を隠さなければ」という強迫観念から解放されたのだ。浮いたお金と時間で、新しい趣味を始めた。次に、「新しい自分との出会い」。髪色が変わったことで、似合う服の色も変わった。黒や紺ばかり着ていた私が、赤やブルーといった鮮やかな色を好んで着るようになった。ショートカットに合わせ、大ぶりのピアスを楽しむようにもなった。周囲からは、「前よりずっと素敵になった」「生き生きしてるね」と言われることが増えた。白髪を受け入れることは、老いを受け入れることではなかった。それは、ありのままの自分を受け入れ、年齢を重ねることを楽しむ、新しいステージへの扉だったのだ。白髪は、隠すべき欠点ではなく、磨けば光る個性になる。私は今、心からそう思っている。