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AGAの始まりは生え際かそれとも頭頂部か
男性型脱毛症、通称AGAはどこから始まるのか。この疑問は、髪の変化に気づき始めた多くの男性が最初に抱く不安の核心と言えるでしょう。結論から言うと、AGAの始まり方には代表的なパターンがあり、主に額の生え際か頭頂部のどちらか、あるいはその両方から進行することがほとんどです。まず、額の生え際から後退していくタイプは、いわゆる「M字ハゲ」と呼ばれる状態です。鏡を見たときに、以前よりも額が広くなったように感じたり、こめかみ部分の剃り込みが深くなったりするのが特徴です。髪をかき上げたとき、生え際のラインがアルファベットのMの字に見えることからこの名で呼ばれています。もう一つの代表的なパターンは、頭のてっぺん、いわゆる頭頂部から薄くなる「O字型」です。こちらは自分自身の視線では確認しにくいため、家族や同僚からの指摘で初めて気づくケースも少なくありません。合わせ鏡で確認したり、スマートフォンのカメラで撮影したりして、頭頂部の地肌が透けて見えたり、つむじ周りの髪の毛が細く弱々しくなり、渦が不明瞭になっていたりすることで自覚できます。なぜ、この二つの部位から薄毛が始まるのでしょうか。それは、AGAの主な原因物質であるジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンの影響を受けやすい男性ホルモンレセプターが、前頭部と頭頂部の毛根に特に多く分布しているためです。一方で、側頭部や後頭部の毛根にはこのレセプターが少ないため、AGAが進行しても髪の毛が残る傾向にあります。どちらのタイプから始まるかは遺伝的要因などによって個人差が大きく、また、M字型とO字型が同時に進行していく混合型のパターンも存在します。自分の髪の変化がどのタイプに近いのかを客観的に把握することが、AGAの初期段階を認識し、適切な対策を講じるための重要な第一歩となるのです。
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髪を守るために今日からできる生活習慣
抜け毛が気になり始めると、すぐに育毛剤や高価なシャンプーに頼りたくなりますが、その前に見直すべきは日々の生活習慣です。私たちの髪の毛は、体の中から作られるものです。特に、特定の病気が原因ではない抜け毛の場合、食事や睡眠、ストレス管理といった基本的な生活習慣を整えることが、何よりの予防策であり、改善策となり得ます。まず、食事です。髪の主成分はケラチンというタンパク質ですから、良質なタンパク質を十分に摂取することが不可欠です。肉や魚、卵、大豆製品などを毎食バランスよく食事に取り入れましょう。また、タンパク質を髪の毛に合成する過程で不可欠な栄養素が亜鉛です。亜鉛は牡蠣やレバー、牛肉の赤身、ナッツ類に多く含まれています。さらに、頭皮の血行を促進し、毛母細胞に栄養を届ける働きをするビタミンEや、頭皮環境を整え、皮脂の過剰な分泌を抑えるビタミンB群も積極的に摂りたい栄養素です。次に、睡眠です。髪の成長を促す成長ホルモンは、私たちが深く眠っている間に最も多く分泌されます。特に、入眠後の最初の三時間は特に重要です。質の良い睡眠を最低でも六時間以上確保することを心がけ、寝る前のスマートフォンの使用はブルーライトが睡眠の質を下げるため控えましょう。そして、現代人にとって最大の敵ともいえるのがストレスです。過度なストレスは自律神経を乱し、血管を収縮させ、頭皮への血流を悪化させます。結果として髪に十分な栄養が届かなくなり、抜け毛を誘発します。ウォーキングなどの軽い運動や趣味の時間を持つなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが重要です。これらの地道な努力が、病気を遠ざけ、健やかで強い髪を育むための土台となるのです。
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私が育毛剤を使い始めた日のこと
四十五歳を過ぎた頃からでしょうか、シャンプーの後の排水溝にたまる髪の毛の量が、明らかに増えたことに気づきました。最初は気のせい、季節の変わり目だからだろうと自分に言い聞かせていました。しかし、ある日、美容院で担当の方から「少し頭頂部が薄くなっていますね、お疲れですか」と遠慮がちに指摘され、心に衝撃が走りました。自分では見えにくい部分だっただけに、他人からの指摘は重く、その日から鏡で自分の頭頂部を確認するのが日課になりました。確かに、分け目の地肌が以前より白く、広く見えます。髪を乾かしても、若い頃のようなふんわりとしたボリュームが出ず、ぺたんとしてしまう。友人との写真を見返しても、自分の髪だけが寂しい印象で、年齢を突きつけられたような気がしました。言いようのない喪失感と不安に襲われ、外出するのも少し億劫になってしまったのです。そんな時、同年代の友人が「実は私も使っているんだ」と、こっそり女性用育毛剤の存在を教えてくれました。最初は少し抵抗がありました。育毛剤はもっと深刻な状態の人が使うもの、という先入観があったからです。しかし、友人の「顔に美容液を塗るのと同じだよ、頭皮だって肌なんだから」という言葉に背中を押され、勇気を出して初めての一本を購入しました。夜、お風呂上がりの清潔な頭皮に、説明書通りに育毛剤を塗布し、指の腹で優しくマッサージする。ひんやりとした液体が頭皮に浸透していく感覚と、心地よいハーブの香りに、不思議と心が安らぎました。これは治療ではなく、今日一日頑張った自分を慈しむためのケアなのだ。そう思うと、毎日の習慣にするのが楽しみになりました。すぐに髪が増えるわけではないけれど、頭皮を大切に扱うことで、自分自身を大切にしているという実感が湧いてきたのです。あの日の小さな一歩が、髪だけでなく私の心にも潤いを与えてくれる始まりだったと、今になって思います。